豊田章男社長はスティーブ・ジョブズになる? トヨタの社名から「自動車」が消える日(産経新聞)

トヨタ自動車の豊田章男社長は、スティーブ・ジョブズ氏を目指している-。

 「100年に一度と言われる大変革の時代に直面している」。最近、折に触れてこう危機感を口にする豊田社長。電動化や自動運転など技術革新の「点」はみえるが、いったいその先にトヨタはどんな企業像を描いているのか。初の2部構成で開かれた5月9日の決算説明会での豊田社長の発言を読み解くと、米アップルを率いたジョブズ氏の歩みとの興味深い一致が浮かんできた。

 《トヨタを「自動車をつくる会社」から「モビリティー(乗り物)・カンパニー」にモデルチェンジすることを決断した》

 「自動車」を「コンピューター」に、「モビリティー」を「IT」に置き換えると、この発言はそのままアップルの変身に重なる。

 スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を世に送り出した2007年1月、ジョブズ氏は会社名をそれまでの「アップルコンピュータ」から「アップル」に改めた。

 当時は、ITの主役が、パソコンからインターネット利用のサービス環境(インフラ)そのものに代わっていく変革期。時代の流れを読み、より身近で、簡単にネットを楽しめるインフラとして、携帯音楽プレーヤーの「iPod(アイポッド)」やアイフォーンとともに、音楽・アプリ配信のサービスを経営の主軸に据えたのがジョブ氏だった。

 アップルが今もコンピューターづくりを続けているように、モデルチェンジしてもトヨタは自動車づくりを止めない。ただ車も単体の製品から、ネットワークで結合された社会インフラの一つへと進化していく。電気自動車(EV)が家庭の蓄電池として使われたり、人工知能(AI)と自動運転トラックによる物流システムなどが構想されているのが端的な例だ。

 ジョブズ氏と同様に、豊田社長の視線の先にあるのが、次代の“大きなインフラの絵”だと考えれば、環境にやさしい水素社会に向けた燃料電池車の開発へのこだわりも合点がいく。

 《大切なことは、新技術を一番早く世の中に出すことよりも、全ての人がより自由に、安全に楽しく移動できる社会の実現に一番役立つ技術を開発することだ》《イミテーション(模造品)何が悪い、それが結果としてイノベーション(技術革新)につながっていく》

 電気自動車(EV)の量産の出遅れ、AIや自動運転をめぐる米グーグルなど巨大IT企業との開発競争への懸念に、豊田社長はトヨタ流の「たゆまぬ改善」が力を発揮すると話す。

 思えばスマホは、アイフォーン以前に、元祖とされる製品「Black Berry(ブラックベリー)」が存在した。キーボードがあり、主にビジネスユースに限られていたブラックベリーに対し、ジョブズ氏はタッチパネルの画面操作、カメラ機能やアプリサービスで、スマホを誰もが使いやすく、楽しめる機器に生まれ変わらせた。スマホという概念は同じでも、全く異なるものだ。究極の改善はイノベーションといえることの証左だろう。

 EVやAIを使う自動運転車も、ITと融合する「コネクティッドカー」も今はまだ入り口。身近なコストで、どんな地域環境でも安全に安心して利用できる大衆化の実現には、ブラックベリーがアイフォーンに化けたぐらい、あるいはそれ以上の発想・設計・要素技術の見直しが求められそうだ。それを突き詰められる改善のDNAがトヨタの強みだと、豊田社長は言いたかったのだろう。

 《これからの時代に求められることはお客さまのニーズを先取りし、必要とされるサービスを必要なときに、必要なだけ提供する、「ジャストインタイム」の世界だ》

 豊田社長は今後、販売店やアライアンス(提携)パートナーと連携し「車+サービス」のジャストインタイム提供を目指す。モビリティーを核とした暮らしの支援サービスだ。これは製品を売り切りで終わらせず、付加サービスで顧客基盤から継続的に収益を得る「リカーリング」と呼ばれる手法、まさにジョブズ氏が先駆けとされるビジネスモデルに通じる。

 トヨタの19年3月期の連結販売台数見通しは、日本が前期比6万5000台減の219万台、北米が6000台減の280万台、欧州が2万8000台減の94万台と、いずれもマイナス予想だ。中国やアジアは伸びるが、人口減の日本はもとより成熟した先進国市場で販売台数の大きな伸びは今後も見込みにくい。台数は横ばいでも収益を伸ばせるリカーリングの重要性が高まるゆえんだ。

 《自動運転になろうが、シェアリングが進もうが、車には愛がつくものにしていきたい。それは絶対にこだわっていきたい》

 「愛車」という言葉があるように、レーシングドライバーとしてもハンドルを握る豊田社長は、車を操ることの楽しさを大切にし、車をパートナーととらえる考えがある。ジョブズ氏もまた、電子回路の美しさにこだわるなど、モノづくりに強い美学があり、それはビジネスモデルが変わる中でも「アップル」の高いブランド力の源泉だった。

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